ツインターボ、47,391人の福島を逃げ切った馬

体重410キロ前後の小さな馬が、スタートから後ろを大きく離して逃げた。逃げ切るか、直線の手前で止まるか。そのどちらかしかない走り方で、いちばん勝ったのが夏の福島だった。

福島競馬場
福島競馬場(写真: Purplepumpkins、Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0)

1993年7月11日、福島競馬場。七夕賞の日のスタンドに、47,391人が詰めかけた。福島競馬場の入場人員の記録になる数である。

8枠16番の小さな鹿毛が、ゲートを出て先頭に立つ。2ハロン目が10秒6、3ハロン目が10秒9。まるで短距離戦の速さで、芝2000メートルを飛ばしていく。

1000メートルの通過は57秒4。後ろとの差は、まだ開く。

直線に入っても、脚は止まらない。2着のアイルトンシンボリに4馬身。ツインターボ、2年ぶりの勝利。

鞍上の中舘英二は、この日が初騎乗。レースのあと、こう話している。

「僕は掴まっていただけ。馬が勝手に鮮やかに勝っちゃった」

35戦6勝
重賞3勝(すべてGIII)
福島競馬場 6戦2勝・2着1回
逃げなかったレースは1戦だけ

ツインターボの記録

ハナに立て

父のライラリッジは、アメリカのダートで下級のレースを2つ勝っただけの馬。ツインターボは、その最初の産駒の世代にあたる。母のレーシングジイーンも11戦1勝に終わっている。同じ年に種牡馬になったシンボリルドルフやサクラユタカオーと比べれば、ほとんど注目されていなかった。

しかも成長が遅い。ようやくデビューしたのは、3歳の3月である。

1991年3月2日、中山のダート1800メートルの新馬戦。調教師の笹倉武久が鞍上の石塚信広に伝えたのは、これだけだった。

「好きなように走らせろ。ハナ(先頭)に立て。あとは舵をとるだけでいい」

石塚は、そのとおりに乗る。スタートから先頭に立ち、3馬身差の逃げ切り。続く3月24日のもくれん賞も、芝2000メートルを1馬身半差で逃げ切ってみせた。

デビュー戦の馬体重は438キロ。その後も406キロから426キロのあいだで、最後まで小さな体のまま走り続けている。

福島の夏、ラジオたんぱ賞

続く青葉賞は9着、駒草賞は5着。どちらも東京の2000メートル以上で、先頭には立てても、最後までは持たない。

そして1991年6月30日、福島。ラジオたんぱ賞、芝1800メートル。5番人気。

大崎昭一を背に、ツインターボはいつものように逃げた。向こう正面で後ろを大きく離し、そのまま押し切る。2着のカミノスオードに1馬身半。ついに初重賞制覇。

秋も止まらない。セントライト記念は2着で、このあと菊花賞を勝つレオダーバンにクビ差の先着。11月17日にはもう1度福島へ行き、福島記念でも2着に入っている。

有馬記念の先頭

1991年12月22日、中山。初めてのGIは、有馬記念だった。

1番人気はメジロマックイーン。その前を、ツインターボが疾走する。3コーナーまでは先頭だったが、直線で止まった。14着。

勝ったのは14番人気のダイユウサク。メジロマックイーンは1馬身1/4届かず、2着に終わる。

レースのあと、鼻出血が判明。年が明けても体調は戻らない。次に走ったのは11か月後、1992年11月の福島民友カップで、1番人気を背負いながら10着。

1993年に入っても、金杯6着、中山記念6着、新潟大賞典8着。勝てないまま、2年近くが過ぎていく。

47,391人の七夕賞

7月、陣営が選んだのは福島だった。ラジオたんぱ賞を勝ち、福島記念で2着に入った競馬場である。

鞍上も替わる。それまでのツインターボは、スタートで遅れることがあった。そこで呼ばれたのが、スタートがうまく、逃げを得意にする中舘英二。中舘自身、新馬戦のころからこの馬の走りを見ていて、1度乗ってみたいと思っていたという。

そして、冒頭のレースになる。

1000メートル57秒4。後半の4ハロンは12秒2、12秒6、12秒4、12秒7と落ちていく。それでも、後ろは追いつけない。勝ちタイムは1分59秒5、馬体重は412キロ。

2着のアイルトンシンボリは480キロ。68キロ重い馬が、4馬身後ろにいた。

オールカマーの5馬身

2か月休んで、9月19日の中山。オールカマー、芝2200メートル。

1番人気は、この年の天皇賞(春)を勝ったライスシャワー。2番人気が桜花賞馬のシスタートウショウ。ツインターボは3番人気である。

スタートから行く。向こう正面で、2番手のホワイトストーンまで約10馬身。その後ろの集団は、さらに10馬身以上も後ろ。

ホワイトストーンに乗っていた柴田政人は、あとでこう話している。

「あれ以上深追いしてたらホワイトストーンが潰れていた」

だから、誰も追いかけない。ところが1000メートルの通過は59秒5で、飛ばしすぎた流れでもなかった。直線でも脚は鈍らず、2着のハシルショウグンに5馬身。ライスシャワーは3着、シスタートウショウは5着。

中舘は、レースのあとにパトロールフィルムを見て、こう言っている。

「何でこんなに離れているんだろうって、信じられなかった」

70メートル

10月31日の天皇賞(秋)。前日の発売では1番人気、当日は3番人気。

だが今度は、ほかの馬が大逃げを許さない。ぴったりマークされ、先頭を保てず、17着に沈む。勝ったのはヤマニンゼファーだった。

ここから先、中央では1度も勝てていない。逃げて、止まる。その繰り返しで9連敗。中舘は「オールカマーで燃え尽きちゃったような気もする」と振り返る。

それでも、逃げることだけはやめなかった。

1994年12月25日、中山の有馬記念。鞍上は田中勝春。道中のリードを、実況が「70メートル」と伝えるほどの大逃げである。結果は13着。勝ったのは、その年に3冠を取ったナリタブライアン。

逃げなかった1回

1995年4月13日、大井の帝王賞。鞍上は武豊。

ゲートで出遅れ、この日のツインターボは先頭に立たなかった。15着。

35戦のうち、逃げなかったのはこの1戦だけである。

上山の最初の1勝

1995年の夏、ツインターボは山形の上山競馬へ移る。

7月23日の文月特別、ダート1700メートル。1番人気に応えて勝利。中央の5勝に、地方の1勝が加わる。

ただ、そのあとの11戦は1つも勝てていない。最後のレースは1996年8月13日、盛岡のクラスターカップ。11着。

1997年、宮城県の牧場で種牡馬に。残した産駒は1世代、5頭だけ。1998年1月15日、心不全であの世へ旅立った。9歳。

勝つか、止まるか

同じ1988年生まれのトウカイテイオーは、ツインターボがデビューした翌月、無敗のまま皐月賞を勝っている。そのまま日本ダービーも勝った。古馬には、メジロマックイーンがいた。

ツインターボは、その真ん中にはいない。勝った重賞はGIIIが3つ。GIは3回走って、いちばん良くて13着。

それでも、名前は残った。『優駿』は死後、「最後の個性派」と書いている。2004年に『優駿』が行った個性派の投票では、逃げ馬の部門で2位。1位はサイレンススズカである。

勝つときは、後ろが見えないところまで逃げて勝つ。負けるときは、直線の手前でぱったり止まる。どちらになるかは、ゲートが開いてみないと分からない。

そのどちらかを、ツインターボは毎回、全力で見せた。

ライラリッジと、レーシングジイーン

母の父はサンシー。生まれは北海道の静内町で、幼いころから食が細く、小さな馬だったという。

父と母の成績は、上に書いたとおり。血統表から、この走り方は読み取れない。小さく、成長が遅く、そしてゲートが開くと先頭へ行く。

七夕賞の日の準メイン

2014年7月13日。福島競馬場は、また七夕賞の日を迎えていた。

この年、JRAは60周年を記念して、過去の名馬の名前をレース名にするメモリアルレースを行っている。名前はファン投票で決まる。福島の七夕賞の日、その準メインに選ばれたのがツインターボ。2位のミヤビランベリの倍以上の票を集めての選出だった。

レース名は、「韋駄天 ツインターボカップ」。

1993年の夏、47,391人の前を逃げ切ってから21年。福島の夏、七夕賞の日のことである。

全成績

年月日競馬場レース距離人気着順騎手
1991/3/2中山新馬ダート180031石塚信広
1991/3/24中山もくれん賞芝200071石塚信広
1991/4/27東京青葉賞芝2400119大崎昭一
1991/5/26東京駒草賞芝200055柴田政人
1991/6/30福島ラジオたんぱ賞(GIII)芝180051大崎昭一
1991/9/22中山セントライト記念(GII)芝220032大崎昭一
1991/11/17福島福島記念(GIII)芝200022大崎昭一
1991/12/22中山有馬記念(GI)芝25001114大崎昭一
1992/11/8福島福島民友カップ芝1800110柴田善臣
1993/1/5中山金杯(GIII)芝200056柴田善臣
1993/3/14中山中山記念(GII)芝180086柴田善臣
1993/5/16新潟新潟大賞典(GIII)芝220028大崎昭一
1993/7/11福島七夕賞(GIII)芝200031中舘英二
1993/9/19中山オールカマー(GIII)芝220031中舘英二
1993/10/31東京天皇賞(秋)(GI)芝2000317中舘英二
1994/1/23中山アメリカジョッキークラブカップ(GII)芝220036中舘英二
1994/3/20中山日経賞(GII)芝250036中舘英二
1994/8/21札幌函館記念(GIII)芝2000411田面木博公
1994/11/20福島福島記念(GIII)芝200038宗像徹
1994/12/25中山有馬記念(GI)芝25001013田中勝春
1995/1/22中山アメリカジョッキークラブカップ(GII)芝2200410中舘英二
1995/4/13大井帝王賞ダート2000315武豊
1995/5/14福島新潟大賞典(GIII)芝2000511宗像徹
1995/7/23上山文月特別ダート170011海方栄二
1995/8/20上山一般ダート170029海方栄二
1995/9/3上山一般ダート170027海方栄二
1995/9/19上山長月特別ダート1800310田代義久
1995/10/15上山神無月特別ダート170029田代義久
1995/10/31上山一般ダート180069田代義久
1996/4/16上山一般ダート180039海方栄二
1996/4/29上山一般ダート180039海方栄二
1996/6/10上山水無月特別ダート170039遠藤五月
1996/7/9上山文月特別ダート180037遠藤五月
1996/7/22上山一般ダート170047遠藤五月
1996/8/13盛岡クラスターカップダート1200411海方栄二

参考資料・画像クレジット

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