今週の一戦: 宝塚記念(2026年6月14日)— 血統で読む注目馬

上半期の総決算、宝塚記念。阪神・芝2200mに集う注目馬を、勝ち負けの予想ではなく、 それぞれが背負う父=種牡馬の物語という角度から読んでみたい。

2025年宝塚記念表彰式のメイショウタバル
Meisho_Tabaru-2025-6-15.jpg / TRJN / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

六月の阪神。梅雨の重い空気のなかで、上半期の総決算がやってくる。宝塚記念は、ファン投票で出走馬の一部が選ばれるグランプリだ。 春のクラシックや天皇賞を戦ってきた馬たちが、距離も季節も違う舞台へ集まり、半年の物語にいったん区切りをつける。

舞台は阪神・芝2200m。スタートしてすぐに上り坂を越え、コーナーを四つ回って、最後にもう一度急な坂が待つ。 スピードだけでも、底力だけでも足りない。器用さと持続力の両方を問われるコースで、だからこそ「強い馬」が素直に浮かび上がりやすい一戦でもある。 今年も国内のトップクラスが顔をそろえた。予想ではなく、血の物語として、注目したい馬を挙げてみたい。

クロワデュノール — 父キタサンブラックが届かなかった場所へ

今年の主役のひとりが、4歳のクロワデュノールだ。2025年の日本ダービーを制し、今年は大阪杯、天皇賞・春と古馬のGⅠを連勝してきた。 ここを勝てば、いまだ誰も成し得ていない「春古馬三冠」が完成する——という、それだけで十分に大きな物語を背負っている。

血統表をたどると、その物語はもう一段深くなる。父はキタサンブラック。長距離で先頭に立ち、押し切る競馬で時代をつくった馬だ。 そのキタサンブラックも現役時代、大阪杯と天皇賞・春を勝ったあと、同じ春古馬三冠を狙ってこの宝塚記念に挑み、勝ち切れなかった過去を持つ。 父が一度は手を伸ばし、届かなかった場所へ、息子がいま向かっている。血が同じ夢を二代で追いかけているように見えるのが、今年いちばんの読みどころだ。 母の父は、シーザスターズらを送り出した欧州の名種牡馬ケープクロス。父譲りの持続力に、母系から欧州的なしぶとさが重なっている。

現役時代のキタサンブラック
Kitasan-Black_IMG_7729r_R_20151025.JPG / Ogiyoshisan / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

父キタサンブラックの物語は、こちらの記事で読める。 → キタサンブラックの記事

メイショウタバル — 父ゴールドシップと刻んだ「親子の宝塚」

連覇を狙うのが、武豊騎乗のメイショウタバルだ。昨年(2025年)の宝塚記念を逃げ切り、GⅠ初制覇を父子制覇という形で飾った。 その父がゴールドシップ。白い馬体と気分屋の出遅れで愛されながら、苦しくなってからもう一度伸びる持続力を武器に、 2013年・2014年とこの宝塚記念を連覇した馬だ。

つまりメイショウタバルにとって阪神2200mは、父が二度勝ち、自身も一度勝った「家の庭」のような舞台になる。 逃げて粘る形は父譲りというより、ゴールドシップが見せた「最後にもう一度動く脚」を別の形で受け継いだものに見える。 同じ血が、違う走り方で同じレースを勝ちにくる。そこを重ねて見ると面白い。 母の父はスピードと立ち回りの巧さを伝えるフレンチデピュティ。父ゴールドシップのスタミナに、米国型のスピードを一滴足した配合になっている。

2015年天皇賞春のゴールドシップ
Gold_Ship_Tenno_Sho(Spring)_2015.jpg / Nadaraikon / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

父ゴールドシップの物語は、こちらの記事で読める。 → ゴールドシップの記事

レガレイラ — 父スワーヴリチャードの血を、牝馬が大舞台で示す

牝馬として牡馬の壁に挑むのがレガレイラだ。2024年の有馬記念を制し、グランプリの大舞台ですでに結果を出している5歳牝馬。 父はスワーヴリチャードで、母父にはハービンジャーが入る。

スワーヴリチャードは現役時代、東京の長い直線で府中のGⅠに手が届かなかった悔しさを持つ馬だった。その血が、産駒では距離やコースの幅となって出てきている。 レガレイラはその幅を体現する一頭で、季節の変わり目で力の要る阪神2200mに、牝馬がどんな走りを持ち込むのか。 父が届かなかったものを、産駒がどう形にするか——という角度で見ると、一頭の馬の枠を超えて読める。 母の父は英キングジョージを制した欧州の強豪ハービンジャー。スワーヴリチャードの決め手に、スタミナと馬格を足している血だ。

ホープフルステークス優勝時のレガレイラ
JRA_Hopeful_Stakes_2023_Regaleira.jpg / Hatomizinko3 / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

父スワーヴリチャードの物語は、こちらの記事で読める。 → スワーヴリチャードの記事

人気薄から一頭: ビザンチンドリーム — エピファネイアの底力

ここまでの三頭が人気の中心なら、血統で読むと面白いのが5歳牡馬のビザンチンドリームだ。重賞のきさらぎ賞を勝ち、長距離の大舞台でも上位に走ってきた実績を持つ。 派手な連勝で来たわけではないぶん、人気の盲点になりやすい一頭でもある。

父はエピファネイア。シーザリオの血を引き、産駒は距離が延びて相手が強くなるほど、底力でじわりと前へ出る——そんな大舞台向きの傾向で知られる。 ビザンチンドリームの良さも、瞬発力で一気に弾けるより、長く脚を使ってしぶとく食い下がるところにある。坂を二度越える阪神2200mは、その血が生きやすい舞台だ。 人気では計りにくい「血の底力」を見たい一頭として、頭の片隅に置いておきたい。 母の父は、ダービーとジャパンカップを勝ったジャングルポケット。トニービンに連なる力強さが、エピファネイアの底力にもう一段の重さを加えている。

2013年菊花賞のエピファネイア
Epiphaneia_Kikuka_Sho_2013(IMG3).jpg / Nadaraikon / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

父エピファネイアの物語は、こちらの記事で読める。 → エピファネイアの記事

結び — 半年の物語が、坂の上で交わる

クロワデュノールは父が届かなかった三冠へ。メイショウタバルは父と並ぶ連覇へ。レガレイラは父の幅を背負って牡馬の中へ。 そして人気薄のビザンチンドリームは、エピファネイアの底力を大舞台で確かめにくる。 いずれも、当ノートですでに取り上げた種牡馬の血を引いていて、それぞれが「父の物語の続き」を阪神の坂の上で走ろうとしている。

勝ち負けの行方は当日になってみないとわからない。それでも、最後の直線で坂を上ってくる馬の帽子の色や脚色の奥に、 こうした血の物語が重なっていると知っていれば、半年分の競馬がもう一度違って見えてくる。週末は、そこを楽しみに観たい。

参考資料・画像クレジット

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