小倉の最後の直線は293メートル。2023年の小倉記念で、エヒトは4番手から運び、4コーナーを2番手で回った。長い直線を待つ競馬ではなかった。58キロを背負った6歳馬は、先に動いて自分でレースを取りにいった。
あれから3年。エヒトは9歳になり、同じ小倉記念へ戻ってくる。今回も58キロで、出走馬の中では最も重い。勝てばレース史上最高齢の優勝になる。玄界灘からの風が吹く夏の小倉に、今年も個性の際立つ顔ぶれが集まったが、まず目を置きたいのはこの古馬だ。
舞台は小倉・芝2000m。芝コースは1周1615.1メートルで、コーナーを4つ回る。直線は平坦でも、2コーナーには小高い丘があり、向正面から3、4コーナーへ下っていく。JRAのコース紹介では、中長距離戦で2コーナーから流れが緩み、途中から動く馬が目立つと説明されている。ゴール前だけを見ていると、仕掛けの一拍を見落とす。3コーナーを過ぎたあたりから見ておきたい。
今年は18頭立て。4歳馬が8頭いる一方、7歳馬は1頭、8歳馬は不在で、9歳馬はエヒトだけだ。世代交代というには少し乱暴な組み合わせだが、出馬表の端から端まで眺めると、エヒトが走ってきた時間の長さはよくわかる。
エヒト、9歳で同じ58キロ
出走馬の中でいちばん長い時間を背負っているのが、9歳牡馬のエヒトだ。父はルーラーシップ。エアグルーヴを母に持ち、香港のクイーンエリザベス2世カップを勝った中距離馬である。息長く走る産駒も多く、エヒトはその代表格になった。
初めて重賞を勝ったのは5歳だった2022年の七夕賞。翌2023年には小倉記念を勝ち、今年は9歳でアメリカジョッキークラブカップ3着、日経賞4着と掲示板に載った。前走の天皇賞(春)は3200メートルで15着。今度は実績のある2000メートルに距離が戻る。
レースの最高齢優勝は、2009年のダンスアジョイによる8歳。グレード制導入後、9歳以上は延べ7頭が出走し、2003年のグリーンブリッツが記録した3着が最高だった。9歳で勝てば、エヒトがこの記録を1歳更新する。
今年のアメリカジョッキークラブカップは、四つのコーナーをすべて2番手で通過した。日経賞では中団から運び、3、4コーナーは12番手。それでも4着まで来た。2023年の小倉記念は4、4、3、2番手で、走破時計は1分57秒8。この3走だけでも、2番手から12番手まで位置を変えている。
レース名と58キロは3年前と同じで、前でじっと待ち、3コーナーから4コーナーで動いたあの勝ち方も小倉に残っている。今年の鞍上は吉村誠之助騎手。9歳の脚をどこで使うのか。見る場所は、その手前の3、4コーナーだ。
父ルーラーシップの物語は、こちらの記事で読める。→ ルーラーシップの記事
香港帰りの4歳、ジョバンニ
4歳牡馬のジョバンニは、この舞台では経歴が目を引く。父はエピファネイア。名牝シーザリオの仔として菊花賞とジャパンカップを勝ち、種牡馬になってからはデアリングタクトやエフフォーリアを送り出した。
ジョバンニは2歳時のホープフルステークスで2着。翌年は皐月賞4着、日本ダービー8着、菊花賞8着と、クラシック三冠すべてに出走した。今春の金鯱賞では、最初のコーナーを先頭で入り、4コーナーは4番手。そこから2着に残った。4月には香港のクイーンエリザベス2世カップへ遠征し、8頭立ての5着だった。
大きな舞台を回ってきたが、重賞のタイトルはまだない。今回は57.5キロ。鞍上は香港でも騎乗したJ.コレット騎手が続けて乗る。直線の長さに任せられない小倉で、最初のコーナーへ入るまでにどの位置を取るか。金鯱賞とは違う形になっても、4コーナーまでに前を射程へ入れられるかを追いたい。
父エピファネイアの物語は、こちらの記事で読める。→ エピファネイアの記事
サフィラは四つのコーナーをどう回る
牝馬では、5歳のサフィラの名がある。父はハーツクライ。有馬記念でディープインパクトを破り、種牡馬としてリスグラシューやドウデュースを送り出した。
サフィラの全兄は朝日杯フューチュリティステークスを勝ったサリオス。半姉には府中牝馬ステークスを勝ったサラキアがいる。自身も2025年の阪神牝馬ステークスを勝った。家族の名を並べるだけで一段落が埋まるほどの血統だが、この春はマイルへ戻らず、中距離の牡馬混合戦を走ってきた。
阪神牝馬ステークスは1600メートルだった。そこから今年は京都記念の2200メートル、金鯱賞と新潟大賞典の2000メートルへ移っている。サフィラは古馬になってから、守備範囲を探るように条件を変えてきた。
2月の京都記念では、四つのコーナーをすべて5番手で通過して5着。その後は金鯱賞9着、新潟大賞典13着だった。今回は55.5キロで、西村淳也騎手とのコンビに戻る。小倉の2000メートルでは、コーナーごとの身のこなしを見たい。向正面で流れが変わったとき、前の集団から離れずに回ってこられるか。向正面から3コーナーにかけて、サフィラの馬体を追いたい。
父ハーツクライの物語は、こちらの記事で読める。→ ハーツクライの記事
3コーナーを過ぎたところで
3年前の勝者エヒト、クラシックと香港を回ったジョバンニ、サリオスの全妹サフィラ。持ち時間の違う3頭が、同じ小倉・芝2000mのゲートに入る。ルーラーシップ、エピファネイア、ハーツクライという父の名も、この3頭を知る入口として残しておきたい。
7月19日の午後、見る場所は293メートルの直線へ入る少し前だ。3コーナーを過ぎ、馬群が下りながら速くなる。その中で、58キロを背負う9歳のエヒトがどこにいるか。吉村誠之助騎手の手が動く、その数秒を待ちたい。
参考資料・画像クレジット
- 2026年7月19日 小倉11R 出馬表(JRA)
- 小倉記念 出走馬情報(JRA)
- 小倉競馬場 コース紹介(JRA)
- 2023年 小倉記念 レース結果(JRA)
- 小倉記念 出走馬・騎手確定(netkeiba)
- 9歳エヒト、レース史上最高齢制覇への挑戦(netkeiba)
- ジョバンニ 競走馬データ(netkeiba)
- サフィラ 競走馬データ(netkeiba)
- エヒト 競走馬データ(netkeiba)
- 画像「Epiphaneia_Kikuka_Sho_2013(IMG3).jpg」Nadaraikon / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons