アドマイヤマーズ、香港のマイルを産駒へ返す

朝日杯、NHKマイルカップ、香港マイル。1600メートルを自分の場所にした栗毛のマイラーは、エンブロイダリーたちへ早い完成度と勝負どころで引かない気持ちを渡し始めている。

朝日杯フューチュリティステークス表彰式のアドマイヤマーズ
Admire Mars(JPN)_IMG_3427-5_20181216.jpg / Ogiyoshisan / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

朝日杯を勝った二歳馬が、そのままマイルの王様になるとは限らない。

早く完成した馬は、早く答えを出したぶんだけ、次の春に疑われる。三歳になって相手が強くなり、距離が延び、クラシックの空気が濃くなる。二歳王者という肩書きは便利だが、少し重い。

アドマイヤマーズは、その重さを何度も背負った馬だった。

デイリー杯2歳ステークス、朝日杯フューチュリティステークス、NHKマイルカップ。そして香港マイル。彼の勝ち鞍を並べると、1600メートルの輪郭がきれいに浮かぶ。速いだけでは足りない。気持ちが前へ行きすぎても、最後に苦しくなる。けれど勝負どころで引かない強さがなければ、マイルのG1は取れない。

その馬が父になり、初年度産駒からエンブロイダリーを出した。

2025年JRA種牡馬リーディング23位。順位だけ見れば、まだ大種牡馬の列に入ったわけではない。けれど内容を見ると、すでにアドマイヤマーズらしい形は見えている。芝のマイル前後を中心に、早い時期から勝ち上がる馬が出る。ダートにも入口がある。短距離で勝つ馬もいる。中距離へ伸ばす馬もいる。

父が現役時代に持っていたのは、単なるスピードではない。

若い時期に完成度を見せ、マイルで踏みとどまり、海外でも自分の走りを崩さなかった強さ。その芯が、産駒たちの中で少しずつ別の形になっている。

13戦6勝
朝日杯FS
NHKマイルC
香港マイル

アドマイヤマーズの記録

現役時代の物語

アドマイヤマーズは、二歳の夏から答えを出した。

中京の新馬戦を勝ち、中京2歳ステークスを勝つ。秋にはデイリー杯2歳ステークスを取り、暮れの朝日杯フューチュリティステークスで二歳王者になった。無敗のままG1へ届いた馬は、見ている側に「このまま全部うまくいくのではないか」と思わせる。

けれど三歳春は、そんなに単純ではなかった。

共同通信杯で二着。皐月賞では四着。距離の壁というより、クラシックの流れの中で自分の一番強い場所を探しているような時間だった。そこでアドマイヤマーズは、NHKマイルカップへ戻る。マイルで、もう一度自分の走りを示す。

その勝利は、二歳王者の看板を守っただけではない。

朝日杯を勝った馬が、三歳春の東京マイルでも勝つ。早熟で終わるのではなく、相手が変わってもマイルの真ん中で答えを出す。その意味が大きかった。

さらに重いのが、香港マイルである。

日本で結果を出したマイラーが、海外の大きなレースで同じように強さを見せる。シャティンの直線で勝ったアドマイヤマーズは、日本の二歳王者という枠を越え、国際的なマイルG1馬になった。

朝日杯フューチュリティステークスの舞台となる阪神競馬場
Hanshin race course 07.jpg / Cake6 / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

血統背景

父ダイワメジャーは、スピードと気持ちの強さで知られるサンデーサイレンス系の名馬だ。皐月賞、天皇賞(秋)、マイルチャンピオンシップ、安田記念。距離の幅はあったが、産駒を見ると早い時期から動ける馬、マイル前後で強い馬、前向きさを武器にする馬が目立つ。

アドマイヤマーズにも、その父らしさは濃い。

ただし、母ヴィアメディチの側から欧州の柔らかさも入っている。母父MediceanはイギリスのマイルG1馬。父から日本的な速さと前向きさを受け、母系からマイルで我慢する体の使い方を受ける。アドマイヤマーズの血統を読むと、1600メートルが中心に見える理由はわかりやすい。

面白いのは、産駒でその中心が少し広がっていることだ。

2025年の勝ち鞍は、マイル前後が最も多い。けれど短距離にも勝ちがあり、中距離にも勝ちがある。ダートでも勝っている。父の名前から「芝マイル専用」と決めるには、出口が少し多い。

このあたりは、ダイワメジャーの産駒らしい実用性と、母系の奥行きが重なった部分だと思う。

種牡馬としての歩み

アドマイヤマーズは2021年から種牡馬入りした。2025年は、初年度産駒が三歳になる年である。

初年度から名前を大きくしたのがエンブロイダリーだった。クイーンカップを勝ち、桜花賞を勝ち、さらに秋華賞も勝つ。父がマイルで見せた完成度と勝負根性を、牝馬クラシックの流れの中で別の形にした産駒である。

ナムラクララ、テレサのように、牝馬路線で存在感を見せた馬もいる。ミクニインスパイアのように、2025年に勝ち星を積み上げた馬もいる。代表産駒の名前だけを見ると華やかなG1馬に目が行くが、種牡馬として大事なのは、下の層でも勝ち上がりが出ることだ。

2025年の集計では、アドマイヤマーズ産駒は365走42勝。勝率は11.5%、3着内率は24.7%。芝は242走28勝、ダートは123走14勝だった。

芝が中心なのは自然だ。けれどダートでも14勝ある。父のイメージよりも、現場で使える入口は広い。ランキング23位という数字は、完成された評価ではなく、初年度産駒の最初の強い足跡として見るほうがしっくりくる。

香港マイルの舞台となるシャティン競馬場
Southeast Panorama over the Sha Tin Horse Race course Hong Kong.JPG / Konstantin Hofmann / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

代表産駒

エンブロイダリー

芝マイルからクラシックへ伸びた初年度の看板馬。桜花賞と秋華賞を勝ち、父の評価を一気に押し上げた。

ナムラクララ

早い時期から牝馬クラシック路線に顔を出した、芝マイル寄りのスピード型。

テレサ

牝馬路線で距離を延ばしながら存在感を見せた中距離寄りの産駒。

ミクニインスパイア

2025年に複数勝利を重ねた、父の実戦的な勝ち上がり力を示す一頭。

産駒成績

集計年: 2025年JRA成績

アドマイヤマーズは2025年JRA種牡馬リーディング23位、総賞金は約8億8000万円だった。対象産駒の2025年成績は365走42勝、3着内90回。勝率11.5%、3着内率24.7%だった。

365走 出走
42勝 勝利
11.5% 勝率
24.7% 3着内率
芝242走(66.3%) ダート123走(33.7%)
短距離 14勝
マイル前後 19勝
中距離 6勝
長距離 3勝

馬場別に見る

区分 出走 勝利 勝率 勝ち鞍の割合
242走 28勝 11.6% 66.7%
ダート 123走 14勝 11.4% 33.3%

父の印象どおり中心は芝にある。ただ、ダートでも勝ち星が三分の一ほどあり、条件戦の入口としては十分に見られる。芝マイルの看板が強い種牡馬だが、使い道をそこだけに閉じ込めないほうがよい。

勝ち鞍の距離分布

距離帯 勝利 勝ち鞍の割合 読み方
短距離 14勝 33.3% 1200〜1400メートルでも前向きさが勝ち星になる。早い完成度を武器にしやすい入口。
マイル前後 19勝 45.2% 最大の中心。父が朝日杯、NHKマイルカップ、香港マイルで見せた芯がそのまま出やすい。
中距離 6勝 14.3% 1800〜2000メートルへ伸ばせる馬もいる。母系や馬体次第で広がる領域。
長距離 3勝 7.1% 主戦場ではないが、持続力や母系の支えがあれば対応例はある。

タイプで見る代表産駒

産駒 タイプ 父から見えるもの
エンブロイダリー 芝マイルG1型 早い完成度、マイルの反応、クラシックで踏みとどまる気持ちが見える。
ナムラクララ 芝マイル牝馬型 牝馬クラシックの入口に立てるスピードと完成度を示した。
テレサ 芝中距離牝馬型 父の前向きさを持ちながら、距離を延ばしても走れる余地を見せた。
ミクニインスパイア 条件戦実用型 2025年に勝ち星を積み、父の勝ち上がり力を日常の条件戦で形にした。
マーズオデッセイ ダート対応型 芝マイルだけではなく、ダートの条件戦にも出口があることを示した。

この種牡馬らしさを一文で言えば、芝マイルの芯を持ちながら、早い完成度と前向きさで短距離・ダートにも勝ち口を作れるところにある。

受け継がれたもの

アドマイヤマーズの名前には、いつもマイルの輪郭がある。

朝日杯の二歳王者、NHKマイルカップの三歳マイラー、香港マイルの国際G1馬。現役時代の物語は、1600メートルを中心にまとまっている。だから父になった今も、まず芝マイルを見るのは自然だ。

ただ、種牡馬としての面白さは、そこから少しはみ出すところにある。

短距離でも勝つ。ダートでも勝つ。中距離へ伸ばす馬もいる。父の強い看板があるからこそ、その外側に出たときの産駒の表情が見えやすい。

アドマイヤマーズは、完成の早さだけで終わる馬ではなかった。二歳で勝ち、三歳春にもう一度勝ち、香港でさらに勝った。早く強い馬が、そのまま強さを保つ難しさを越えた馬だった。

産駒にも、その難しさを越えていく馬が出始めている。

エンブロイダリーの大きな勝利は、父の評価を一気に明るくした。けれど本当に見たいのは、そのあとだ。看板馬だけではなく、条件戦の勝ち馬がどれだけ増え、芝とダート、短距離とマイルの間でどんな形を作るのか。

香港のマイルを勝った栗毛の馬は、父になってからも、ただ速さを渡しているわけではない。

若い時期に戦える完成度。勝負どころで引かない気持ち。1600メートルを中心に、少しずつ外へ広がる実用性。アドマイヤマーズの血は、その三つを産駒たちへ返し始めている。

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