ブリックスアンドモルタル、アメリカ芝王者が日本で組み直す血

アメリカの芝で、最後まで負けなかった一年がある。その米芝王者は日本へ来て、芝だけでなく砂にも出口を作り始めている。

ブリーダーズカップの舞台になったサンタアニタパーク
Santa Anita Park (USA).jpg / Lisa Andres / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
13戦11勝
BCターフ
2019年米年度代表馬
ペガサスWCターフ

ブリックスアンドモルタルの記録

サンタアニタの直線で、一年が閉じる

2019年11月、サンタアニタ。ブリーダーズカップターフの直線で、ブリックスアンドモルタルは外からではなく、馬群のあいだをほどくように前へ出た。

名前は硬い。煉瓦とモルタル。けれど走りは、ただ押し固めるものではなかった。好位で我慢し、狭いところを待ち、最後に届く。 米年度代表馬という肩書きだけを先に見ると、もっと圧倒的な馬を想像するかもしれない。実際には、勝ち方の多くが少し危うい。だからこそ強かった。

この馬を読むなら、まずそこから入りたい。故障で長く休み、戻ってきてから負けなかった。相手が強くなり、距離が延び、舞台が大きくなっても、最後の数完歩で自分の場所を作った。

復帰初戦から、芝王者への道が始まった

ブリックスアンドモルタルは2014年生まれの米国産馬。父はGiant's Causeway、母はBeyond the Waves、母父はOcean Crest。Chad C. Brown厩舎でデビューし、3歳時から芝で素質を見せた。

ただ、成績表はまっすぐ伸びない。2017年秋のあと、長い休養に入る。競走馬にとって、休むことはただ時間を置くことではない。 体を戻し、気持ちを戻し、もう一度レースの流れに入る必要がある。

その復帰後が、彼の本当の物語になった。

2018年末に戻り、2019年初戦のペガサスワールドカップターフでG1初勝利。そこからムニスメモリアルH、ターフクラシックS、マンハッタンS、アーリントンミリオン、そしてブリーダーズカップターフへ進む。 2019年は6戦6勝。5つのG1を含む連勝で、米年度代表馬と最優秀芝牡馬に選ばれた。

ペガサスワールドカップターフの舞台を連想させるガルフストリームパーク
FTGPscenics3-15FTK152.jpg / FasigTiptonCo / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

Giant's Causewayの血を、日本の厚い地層へ

血統表を見ると、ブリックスアンドモルタルは日本の主流から少し離れた場所にいる。

父Giant's CausewayはStorm Catの直仔。欧米で芝とダートの両方に強い影響を残した、力と粘りのある血だ。 母Beyond the Wavesはフランスで実績を持つ牝系で、母父Ocean Crestからも米国的な底力が入る。

日本の繁殖牝馬には、サンデーサイレンスの血が深く入っている。だから、こういう輸入種牡馬にはわかりやすい役割がある。 血を薄めるためだけではない。サンデー系の切れと、Storm CatからGiant's Causewayへ続くしぶとさを、どこで噛み合わせるか。その配合の問いを持ち込む父だ。

芝王者なのに、産駒は砂にも出る

日本での供用は2020年から始まり、初年度産駒は2023年にデビューした。

最初に芝で大きく名前を出したのはゴンバデカーブースだった。サウジアラビアロイヤルカップを勝ち、東京のマイルで父の切れ味を見せる。 米国芝王者の産駒が、日本の芝マイルで重賞を勝つ。そこだけを見れば、話はきれいにまとまる。

けれど、ブリックスアンドモルタルの面白さはそこで終わらない。

アンモシエラはダート中距離でJBCレディスクラシックを勝ち、イーグルノワールも兵庫ジュニアグランプリを勝った。 ダイヤモンドノットは2歳芝重賞で結果を出し、朝日杯フューチュリティステークスでも2着に入った。 芝王者の父なのに、出口は芝だけではない。むしろ、そこに日本での読みどころがある。

アーリントンミリオンの舞台になったアーリントン競馬場
Horse race, Arlington International.jpg / Slooby from Chicago, U.S.A. / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

代表産駒に見える父の輪郭

ダイヤモンドノット

2歳芝1400から1600メートル型。京王杯2歳ステークスを勝ち、朝日杯フューチュリティステークスでも2着に入った。

ゴンバデカーブース

芝マイル型。サウジアラビアロイヤルカップで、父に日本の中央重賞初期の印象を作った。

アンモシエラ

ダート中距離牝馬型。JBCレディスクラシックとブルーバードカップで、父の産駒像を砂へ広げた。

イーグルノワール

2歳ダート型。兵庫ジュニアグランプリを勝ち、早い時期からダートで動ける面を示した。

産駒成績

集計年: 2025年JRA成績

2025年成績集計では、ブリックスアンドモルタル産駒は850走59勝、3着内191回。 勝率は6.9%、3着内率は22.5%。2025年JRA種牡馬リーディング15位、総賞金は約10億9000万円だった。 芝の父という入口を持ちながら、数字ではダートにもまとまった出走と勝利がある。

850走 出走
59勝 勝利
6.9% 勝率
22.5% 3着内率
芝568走(66.8%) ダート282走(33.2%)
短距離 15勝
マイル前後 24勝
中距離 14勝
長距離 6勝

馬場別に見る

区分 出走 勝利 勝率 勝ち鞍の割合
568走 42勝 7.4% 71.2%
ダート 282走 17勝 6.0% 28.8%

芝の出走と勝利が中心。ただしダートにも3割強の出走があり、勝利も積んでいるため、芝専用の父とは言い切れない。

勝ち鞍の距離分布

距離帯 勝利 勝ち鞍の割合 読み方
短距離 15勝 25.4% 1400メートル以下でも、早い世代の前向きさが出る。
マイル前後 24勝 40.7% 2025年の中心。父の芝の反応が、1500から1800メートルで形になりやすい。
中距離 14勝 23.7% 1900から2200メートルにも勝ち星があり、芝王者らしい持続力を残す。
長距離 6勝 10.2% 主戦場ではないが、距離を延ばして粘る余地もある。

勝ち星はマイル前後が最も厚い。そこへ短距離と中距離が続くため、単なる芝中距離父ではなく、マイルを軸に前後へ広がる父として見える。

タイプで見る代表産駒

産駒 タイプ 父から見えるもの
ダイヤモンドノット 2歳芝短距離からマイル型 早い完成度と芝の反応で、父の日本での芝適性を示した。
ゴンバデカーブース 芝マイル型 東京マイルで重賞を勝ち、米芝王者の切れを日本の芝へつないだ。
アンモシエラ ダート中距離牝馬型 砂の中距離で結果を出し、父の出口を芝だけに閉じなかった。
イーグルノワール 2歳ダート型 若い時期から砂で動ける面を、はっきり見せた。

ブリックスアンドモルタル産駒は、米芝王者の反応をマイル前後に出しながら、ダートや中距離にも出口を作れるところに父の輪郭がある。

2025年の15位が意味するもの

2025年JRA種牡馬リーディング15位。総賞金は約10億9000万円。

順位だけを見れば、すでに上位の常連というより、上位圏へ踏み込んできた父という位置だ。だが、産駒の中身を見ると単純ではない。 芝568走42勝。ダート282走17勝。芝が主軸でありながら、砂でも勝つ。

ここが、この父の現在地を面白くしている。

日本で輸入種牡馬を見るとき、つい「芝向きか、ダート向きか」と分けたくなる。ブリックスアンドモルタルは、その線を少しぼかす。 現役時代の主戦場は芝だった。けれど産駒は、芝のマイル前後を中心にしながら、ダート中距離にも重い足跡を残している。

だから15位という数字は、完成形の順位ではない。サンデー系の牝馬と噛み合ったとき、どの方向へ強い馬が出るのか。その答えが、まだ複数残っている父の順位だ。

異系の父が、地図に線を引く

ブリックスアンドモルタル自身は、アメリカの芝で頂点に立った。

ただ、その血が日本へ来た意味は、父の現役時代をなぞることだけではない。芝のマイルでゴンバデカーブースが走る。 2歳芝でダイヤモンドノットが名前を上げる。ダートではアンモシエラとイーグルノワールが別の扉を開ける。

硬い名前の父から出てくるものは、意外にしなやかだ。

煉瓦のように積み上げる勝ち星と、モルタルのように血をつなぐ役割。米芝王者の物語は、サンタアニタで終わったわけではない。 日本の配合地図の上で、いまも少しずつ新しい線を引いている。

参考資料・画像クレジット

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